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現在、東京都内における賃貸ビルの空室率は4~5%ほどでといわれています。 しかし景気回復が報じられ、賃貸ビルの稼働も好転しつつあるといわれても、築年数の経過した中小ビルのオーナーにとっては「実感できない」というのが本音ではないでしょうか。賃貸ビル市場はこれまで大規模・新築・ハイスペックな物件の賃料がまず上がり、それがやがて既存の中小物件に波及するという一連の流れがありました。しかしその流れも、もはや過去のものになろうとしているのです。
東京都内では2003年に超高層オフィスビルが相次いで竣工し、その流れは2006年ごろにはじまったいわゆる不動産プチバブルに受け継がれました。各地で大規模開発が計画され貸し床面積は一挙に増大しますが、その直後に金融危機が発生すると、今度は日本のほとんどの都市でビルが余る状態となってしまいます。空きビルの増加によって新築の大規模ビルの賃料相場が下がると、テナントを奪われた既存の大規模ビルでは空室対策として賃室の小割化を進行させました。新築物件によって奪われたテナントを中小ビルからの移転で埋めよう、というわけです。 この動きによって、「大規模ビル=大面積の貸室」、「中小ビル=中小規模の貸室」という従来の構造が崩れ始めると、これまで厳然として存在した「大規模ハイスペックビル=比較的高い賃料」、「中小ビル=比較的安価な賃料」という賃料の差も縮まりはじめます。エリアによってはほとんど同一の賃料相場という例も存在し、逆転している場合すらでてきたのです。「ならば賃料をさらに下げれば良い」という意見があるかもしれません。しかしそれが無理なことは、中小ビルをお持ちのビルオーナーならよくご存知のことと思います。 今日、賃貸ビルマーケットにおいてもっとも多くのストックを抱えているのはバブル期に竣工した中小ビルです。建築当初の計画どおりであれば、今頃はイニシャルコストの大半を償却して、耐用年数の近づいた設備も更新して、内外装もリフォームして、賃貸ビルとしての高いポテンシャルを維持し続けていられたはずなのです。しかしバブル崩壊とその後長く続いた経済停滞はその計画の履行を不可能にしたばかりか、ただでさえ少ない運転資金をも削いでしまいました。結果として多くの中小ビルが、競争力が低下したまま空室を抱えているのです。 こうした状況下における賃料の値下げは、収益力のさらなる低下を意味します。いま収益力を下げてしまえば、設備の更新はおろか残ったイニシャルコストの支払いにも支障をきたしかねなません。大規模ビルという新たなライバルへの対応とはいえ、賃料の値下げを自分から言い出せるような状態ではないのです。
不動産ビジネスライター 久保純一 氏 不動産専門紙などで専属記者として、不動産ビジネスの最前線を長年にわたり取材。徹底した現場主義による、綿密な取材に基づいた記事には定評がある。独立後、不動産ビジネスにまつわる豊富な知識、経験を元に、現在は不動産経営者向け専門紙、物流不動産ビジネス誌、経済誌、専門サイトなど幅広いフィールドで活躍中。
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