トランクルームマーケット情報

不動産ビジネスとしての収納ビジネス(レンタル収納・コンテナ収納・トランクルーム)

筆者:株式会社矢野経済研究所 菅原 章 氏

日本の収納ビジネス(レンタル収納・コンテナ収納・トランクルーム)及びセルフストレージ市場について、市場環境の視点から10回にわたってレポートします。

今回(第7回)は利用側の目線ではなく、ビジネスという視点で収納ビジネスをみていきたいと思います。
トランクルーム・コンテナ収納・レンタル収納を比較すると、それぞれビジネスとして異なる点がいくつかあるため、今回はレンタル収納を中心にレポートしていきます。

現在、都心では、駅に近く、大規模で、最新設備の整ったオフィスビルの供給が急激に進んでいます。同様に、大阪駅や名古屋駅でも再開発として大型オフィスビルの開発、竣工の話題が最近多くなってきています。
その反面、駅から遠いとか、築年数が経過し老朽化してきた建築物や、現在のビジネスに対応するための電力やIT化するために相応の設備投資が必要になるといった建築物(ビルや倉庫など)を保有している不動産会社は、従来からのテナントが移転などで転居してしまうと、その後のテナント探しが厳しい状況となっています。
中小の不動産事業者は、時代とともに、自然と競争力を失ってしまっている可能性が高い。名のとおり、「不動の資産」であるため、空き状態で保有しているのではなく、有効活用する術を考えなければならなく、大幅な賃料の切り下げか、大規模なリニューアル工事等の追加投資が必要となってしまいます。

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そこでオフィス・事務所ではない、その他の有効利用を検討する事業者も現れ、SOHO事業者向けのレンタルオフィス・サービスオフィス事業や貸し会議室事業などが街中で数多く見られるようになってきています。こういったビジネスのひとつとして、収納ビジネスが注目され、ここ数年で急激にその数を増やしています。
このような不動産ビジネスは、従来のように1棟もしくは1フロア単位でひとつの法人に賃借するのではなく、時間帯別に切り出して賃借する貸会議室や、広さを小さくして賃借するレンタルオフィス/レンタル収納といった形にして、空室リスクを分散しています。

ただし、このように既存不動産の有効活用という視点だけでは、現在よりも大きな市場拡大は見込めません。より効率を追求した収納専用施設(アメリカでいう「Self Storage(セルフストレージ)」)の登場により、オフィスや倉庫のように不動産投資となる市場となれば、多くの資金が導入され、市場がさらに活気づく可能性を秘めています。

収納ビジネスのビジネスモデル

まず、不動産を保有する事業者が、収納ビジネスを始めるビジネスモデルとして、代表的な三つの事例を紹介します。

【1】不動産保有/収納サービスを自ら展開
<事例>
都内に数か所自社ビルを保有し、不特定の企業に対して事務所として賃貸している「ABC不動産」は、ビルの老朽化に加えて、周辺に大型再開発ビルが建築されたため、空室率(空きフロア)が増えてきてました。
そこで新規事業として、空きフロアを収納スペースとしてリニューアル工事を行い、「レンタル収納」として自ら展開をはじめました。




【2】不動産保有/収納サービスを外部委託
<事例>
「ABC不動産」は、空きフロアを「レンタル収納」のオペレーター「△☆レンタル収納スペース」に対してサービス運営を委託して収納サービスを始めました。
「ABC不動産」は、「△☆レンタル収納スペース」との賃貸借契約のみとなり、各利用者との契約事務等の手間から軽減されますが、空きフロア部分の賃料収入のみとなります(オぺーレーターとの契約で幾つかのパターンがあります)。




【3】不動産を保有しない/収納サービスを展開
<事例>
「△☆レンタル収納スペース」は、自らが不動産の保有はしないため、空きフロアをもっている「XYZ不動産」に収納スペースとして利用するためのマスターリース契約(賃貸借契約)をしたうえで、レンタル収納サービスを自らが始めました。
現在、日本国内におけるレンタル収納事業者のほとんどが、不動産を保有しない、収納サービスの専門的な運営事業者が多い。【2】の不動産保有事業者の外部委託先としての位置づけとなります。




始めの部分でも少し触れましたが、有効活用としてのビジネスモデルのままでは、市場拡大のスピードは劇的な変化は恐らくしないと考えられます。今のままでは、アパート管理ビジネスと然程変わらないからです。大手の収納サービスへの寡占化による、効率的な運営手法の確立、サービス価格の低下、品質の向上などがもう一段進むことに期待します。

収納ビジネスのメリット/デメリット

既存の不動産を保有しており、オフィス事業と収納ビジネスを比較して、事業者視点でのメリット/デメリットについて整理します。

「【1】不動産保有/収納サービスを自ら展開」の場合
<メリット>
1. オフィスからレンタル収納へのリニューアル費用は、電力・空調・IT化等のオフィス機能向上のためのリニューアル費用と比較すると低額で済むケースが多い。
2. 不動産賃貸借契約ではあるが、物品・荷物のための貸スペースであるため、賃貸住居・オフィスのような退去時の敷金・立ち退きトラブルがほぼない(レンタル収納の場合、敷金を取らないケースも多い)。
3. 募集賃料を容易に変更できるため、キャンペーンなどの集客活動を行うことができます(事業者が待ちではなく、攻めることができます)。
4. 光熱費(電気・ガス・水道等)のランニングコストが抑えられるだけではなく、水回り設備の利用頻度が少ないため、メンテナンスコストも下げられます。
5. 管理人のいない賃貸アパートと同じように、収納施設を無人で管理することもできます。

<デメリット>
1. オフィス契約の場合、契約書1本でビル1棟もしくは複数フロアを貸すことができたが、収納スペース分(100スペースなら100件)の契約手間が発生する。
2. 同様に、賃料回収が法人1件だったものが、契約数分(100件)の賃料回収作業が発生します。それにともない、賃料未回収リスクも増えます。
3. レンタル収納への参入事業者が増えているため、競争の激化による賃料の低下が懸念されています。
4. 運営に関するノウハウ不足が懸念されます。
5. 投資資金を回収するまで、一定の期間を要します。
6. 契約者とはいえ、24時間365日その建物で働かない不特定多数の人の出入りがあります。したがって、他フロアの事業者がセキュリティ面を懸念されることがあります。

上記のデメリット部分を補うために、必要に応じていくつかの外部委託をすることもできます。
例えば、「2. 賃料未回収」については入金管理・滞納保証をする事業者がありますし、「4. 運営ノウハウ不足」についてもサブリースのように運営の一切合切を担ってくれる事業者もある(これがつまり「【2】不動産保有/収納サービスを外部委託」のパターンです)。
また、契約手間については、契約事務手数料として賃料以外の収益としている事業者もいます。

米国の収納ビジネス

日本より大きなビジネス規模がある米国では、収納を目的とした専用のSelf Storage施設(1棟丸ごとレンタル収納である建物)が数多くあります。そして、既に上位事業者は上場し、米国不動産分野では、Self Storage(収納ビジネス)としての地位を確立していて、一つの産業となっています。その結果、Self Storage施設・事業の売買なども行われています(実際にはREITのなかのひとつのカテゴリーを形成していいます)。
日本でもクリアしなければいかない課題がいくつかありますが、いずれはこういったレンタル収納施設を不動産売買の対象としたビジネスが出てくるかもしれません。一般的なオフィスビルと違って、資金回収に少し時間がかかるものの、安定稼働以降は逆に空室リスクが小さくなるため、安定的に収益を生む事業として、投資家のきちんとした評価が見出されることに期待しています。

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